素材の味が活きる発酵食品を活用して、体にいいものを【「美味しい」と感じる味覚を育てる】
味噌ソムリエ 床 美幸×P.G.C.D.代表 野田 泰平[パート1]
私たちの体は、飲んだり食べたりしたものからできています。だからこそ、食べ物を選別するのは健康や美にとってとても大切です。今回は、味噌ソムリエであり、発酵に関するYouTubeを発信している床美幸さんをお迎えし、代表の野田泰平と対談。発酵食品の良さや、健康と美の秘訣についてお伝えしていきます。
発酵は白雪姫に出てくる「7人の小人」のように、寝ている間にも働いてくれる
野田泰平(以下、野田)
床さんは、発酵のYouTubeチャンネルでいろいろな方と対談されています。発酵について発信したい、と思った背景などを教えていただけますか。
床美幸(以下、床)
美とは関係がないかもしれませんが、発酵って「エコ」なんです。だから、今の時代にすごくフィットすると思っています。
人間が好き勝手にしていた時代から回帰して、現代はもう一度自然と共生していく流れになっていますよね。自然を大切にしながら、人間の存在を意識するなかで、発酵は自然の一部である微生物の力を使わせていただいています。
ひとつは、ものの消費期限を長引かせることです。腐った食品はお腹を壊しますが、たとえば納豆になれば食べられる日にちがぐっと伸びる。煮大豆なら数日しか持ちませんが、お味噌にすれば1年でも持ちます。1年どころか、五年味噌なんていうものもある。
また、長持ちするだけでなく、アミノ酸が増えてすごく美味しくもなります。自然の力を使わせていただいておいしくなるので、私は「白雪姫の七人の小人」と呼んでいます。寝ている間にも仕事をしてくれて、私たちのためにいいものを作ってくれているんですね。
そう考えると、私たちと発酵って、これからもっと仲良くなりたい、それによってもっとハッピーになれる。かつ、サスティナブルなんじゃないか、って思っています。
「発酵人」という人たち
野田
発酵をキーワードに、いろいろな方と対談される中、学んだことや気が付いたことなどはありますか?
床
発酵の現場で活躍されている方を、私は「発酵人(びと)」と呼んでいます。発酵人に話を伺うと、哲学的な考えを持っている方がすごく多いんです。
野田
なんだか素敵ですね。
床
自然からいただいたものを使わせていただき、それを還元していくという考えで、例えば会社として寄付をしたり、地域の景観を保全するために資金を提供したり。また、自然を壊す活動に否定的で、自然を大切にしながら私たちも生かしていただく、という考え。かっこよくて素敵な生き方をしている方が多いと感じます。
超自然的な生き方というより、上手く現代社会のテクノロジーを利用しつつ、発酵にも真摯に向き合っているんです。朝起きて牛の乳を搾ってそのままチーズを作る姿と、夜に昔のレコードを聴きながら星空を見てお酒を飲む姿が共存していて……。そういった素敵な生活をされている方が多いですね。
原材料にとことんこだわる「発酵人」たち
床
発酵食品は、限られた材料で作るので、原材料の品質が美味しさに直結します。だから、皆さん原材料に対しての想いがとても強い。京都に飯尾醸造さんという美味しいお酢屋さんがあるのですが、富士酢って知っていますか?
野田
はい。以前、床さんから伺いました。
床
そうでしたね。お酢はお米からできますが、どんなプロセスでできるか知っていますか?
野田
途中で、酒に行くものと、酢に行くものに分かれていく……?
床
まずお酒を作り、酢酸菌がお酒を分解して酢をつくる。だから、お酢屋さんは原料としてのお酒が必要です。
ほとんどのお酢屋さんは、酒屋さんからお酒を買って材料にしています。ただ、それでは元の原材料としての米の品質までは管理できません。
野田
なるほど、そうですね。
床
でも、飯尾醸造さんは、地元で採れた米でまずお酒を造る。そのために、酒造免許を取って、厳しい基準のもとにお酒を造り、そこから酢酸菌の力だけで昔ながらの静置発酵でお酢を作っているんです。大量生産であれば、24時間くらいでお酒からお酢が作れるらしいのですが、飯尾醸造さんは1年くらいかかります。なぜそこまでするのかというと、美味しさを追求されているからなんです。
もう一つ、岡山の吉田牧場さんも、美味しいチーズを作るために美味しい牛乳にこだわっています。しかも、フレッシュでなくてはならないので、買ってきた牛乳ではダメです。そのため吉田さんの考えではチーズを作るためには牛飼いにならなくてはならなかったというわけです。
さらに、牛乳は、牛たちが食べた牧草に影響されます。牧草にこだわり、牛たちがストレスなく機嫌よくしていいお乳が出せるよう、日々、気を配っていらっしゃいます。
「美味しい」が一番のポイント
野田
そこに発酵人の哲学があるんですね。原材料にこだわる際、原材料が「いい」「悪い」というのは、どう判断していくのでしょうか。基準のようなものはありますか。
床
それは……美味しいです、ただ。
野田
やはり、美味しいんですね。オーガニックや無農薬ということが第一ではなく、味覚を大事に、ということなのでしょうか。
床
美味しさを突き詰めると、栽培方法までたどり着く方が多いので、結果的にオーガニックや自然農法になるようです。飯尾醸造さんも、無農薬製法でお米を作ってらっしゃいますね。
野田
味の好みって個人的なものだと思いますが、オーガニックや無農薬といった食材の味を求めている人が増えているんでしょうか?
床
うーん、どうなんでしょうね。発酵って昔からあるので、昔ながらの味を継承しようとすると、昔ながらの製法に戻る、ということかもしれませんね。
ただ、「美味しい」が主観的であるというのは大事なポイントですよね。強い味を毎日食べている人の「美味しい」は圧倒的に強い味。健康的に暮らしたいのであれば、体を調子よく整える美味しさを舌が感じてくれるのが一番だと思っています。
「これはしょっぱい」「甘すぎる」というものを食べ続けたら体に悪いわけです。でも、その味覚がみんな少しずつバグっている。一方、発酵人のところへ行って、食べ物や飲み物をいただくと、「美味しいゾーン」というのは結構重なるんです。
もちろん、自分の健康を維持する食べ物には個人差があるとは思います。ただいずれにしても、自分の健康を保てる食べ物を「美味しい」と思えるように舌をトレーニングするのは大事だと思っています。
野田
具体的には、美味しいと思うものを食べているとなぜ健康になれるんでしょうか? もう少し教えていただけませんか。
床
例えば、疲れているときにすっぱいものを食べたくなるとか、徹夜明けならスパイシーなものを食べたくなるとか……。冬はお鍋のような体を温めるものを食べたくなるのも、体の素直な反応だと思います。
舌と体の細胞ってつながりが深いと思っています。舌が敏感ということは、体のSOSにも敏感なのではないでしょうか。細胞が「すっぱいものが欲しい」とSOSを出しているのに、舌がすっばいものを美味しいと感じず、インスタントラーメンを食べたくなったら台無しですよね。
とはいえ、インスタントラーメンを食べるのがダメというわけではありません。「強い味だな」ということをわかって食べればいい。でも、毎日食べ続けていると、本当にわからなくなってしまう。
野田
舌がバグった状態で食べ物を食べると、やはり健康に対する悪影響がありますよね。
床
例えば、一緒にお弁当を食べているとき、魚のフライが酸化した油で「変な味がする」と私が思っても、隣の人は「美味しい」と言っていることがあります。本来、酸化した油は体に良くないのですが…
また、塩分の摂りすぎも、血圧、血管によくない影響があります。しょっぱいものをしょっぱく感じないと、その分塩分を摂りすぎる可能性があります。
コーヒーチェーンでパフェのような飲み物を出している店もありますが、私はふた口くらいで無理でした。でも完食している人は多かったようです。あの飲み物を頻繁にいただいていると血糖値に影響がありそうです…
野田
それも、舌がバグっている弊害ですね。そういった食べ物が増えているからこそ、発酵人の方や床さんのように、味に敏感になり、昔からの製法やオーガニックな食品に寄っていくといいのでしょうね。
床
そうですね。自然なスタイルに戻っていくと、人間はみんな元気になるんだな、と思います。意識高い系というより、無理なく自然に暮らしている結果ですよね。
執筆:栃尾江美
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