【好評開催中の個展】藤本純輝氏 アート対談[パート2]
~現代アートの難しさを知ったうえで自分なりに楽しむには~
JBIG meets Art Galleryで開催された、アーティスト藤本純輝(ふじもと・あつき)氏の個展「花と花瓶」。その作品やテーマをベースに、P.G.C.D.の代表野田泰平が、藤本氏にインタビューします。今回の第2部は、藤本氏のアートへの向き合い方や、鑑賞する側の楽しみ方。「現代アートはなぜ難しい?」といった、気になる疑問にも答えています。
現代アートは、歴史や美術史を前提にしているから難しい
野田泰平氏(以下、野田)
この対談の第1部では、藤本君がこの手法にたどり着いたきっかけやプロセスなどを伺ってきました。第2部は、現代アーティストである藤本君の立場から、一般の人たちがアートを楽しむ方法を解説してもらいたいと思っています。
日本は、アート市場自体が大きくなく、ここ20~30年間シュリンクしているとも言えます。「何を買っていいか正解がわかりません」「これは正しい楽しみ方なんだろうか」といった質問を受けることもあります。そこでもっと気軽に、人生を豊かにしてくれて、楽しめるものとしてアートに触れてほしい。家具を買い替えるのは大変ですが、アートなら簡単に模様替えができます。藤本君は、アートの見方や向き合い方をどのように考えていますか?
藤本純輝氏(以下、藤本)
よく言われる「アートは難しい」というところからお話ししたいと思います。私たち現代の作家は、美術やアートの始まりから最も遠いところにいます。つまり、アートの始まりから膨大な物量と時間、人や世界の動向などのストーリーを経て、現代の作品がある。そこが一番難しいところだろうと思っています。
連続ドラマやアニメに例えるとわかりやすいですが、1話から見ればわかるのに、途中から見てもよくわからないですよね。ドラマやアニメ同様、現代のアーティストは、紀元前の壁画から始まるアートの歴史、社会背景や哲学、思想、物理学などを踏まえたうえで、自分自身のストーリーを作っているのだと思います。
例えばガンダムなら、45年の歴史があります。もし、次のガンダムシリーズの制作を頼まれたらどうしますか? おそらく、今までのガンダムをすべて見ますよね。そうしないと、既出の演出やテーマをもう一度作ってしまう可能性がある。また、過去作品を知って、より深めた作品を作らなければ、ファンは面白いと思ってくれないでしょう。
アーティストも同じで、プロとして制作し、発表するなら、美術史や社会背景を勉強します。歴史というストーリーの中で、どんな新作を作るのか。それが現代アーティストの使命です。
野田
ガンダムがこれまで1000話あったとして、1001話目を監督するならどんな作品にするか。ガンダムには、ロボット、人間のエゴ、進化論など要素や文脈が無限にあります。その中から、次のテーマとして置く「点」を選んでいくのですね。
美術史をすべて把握するのは難しい。だから、ひとつの出会いをきっかけに
野田
これまでの話を踏まえると、現代アートはどんな風に楽しんでいけばいいのでしょう?
藤本
楽しみ方として理想的なのは、ストーリーをすべて知ることでしょう。でも、それはほぼ不可能です。だからまずは、自分の好きなもの、琴線に触れるアートに出会えるといいですね。もし出会えたら、その作品やアーティストを糸口に、過去の作品や影響を受けた作品などをたどっていけば、深く楽しんでいけると思います。
野田
アートを鑑賞する立場からすると、子どもたちは「この絵が好き」とピュアに感じ、発言できる。でも、大人になった瞬間に、正解を求めてしまう傾向にあります。「どの作品を高く評価するのが正解なのだろう」と考えてしまう。でもそうじゃなくて、自分の琴線に触れる作品を見つければいいんですね。そのうえで、好きな作品の背景や、これまでの歴史を知ると、その作品を理解できたり、より好きになったりするんでしょうね。
浮世絵に影響を受けたモネと、日本にいながら印象派的な作品を作る藤本氏
野田
第1部の対談でも触れましたが、僕は初めて藤本君の作品を見たときに、モネの作品を想起しました。藤本君は、モネをはじめとする美術史の文脈の中で、自分の作品を通じてどんな点を置こうとしているんですか?
藤本
印象派のアーティストはたくさんいますが、その中でモネに注目すると、彼は日本に影響を受けたと言われています。一方、僕は日本にいながら印象派的な見方で、感じたままに絵を描いているんじゃないかと思います。
モネは光で表現していますが、僕は気配や佇まいなども含めて描こうとしています。加えて、絵画の歴史を通しての1001話として、物理的に前後や遠近のある絵画空間を作っています。布を剥き出すことで、手前にあるものと奥にあるものが物理的に表現できる。絵画を平面的なものだけでなく、空間を作り出す物体として捉えるという意味で、絵画史を開拓していると自負しています。
野田
いま、2つの視点で話をしてくれました。ひとつめは、日本人だからこその情緒的な表現で空間を作り出し、それによって、僕たちは空間や風や香りといったものを感じ取れるということ。2つめは、絵画史の中で布を剥ぐという行為を通し、3次元の奥行や陰影が生まれているということでした。
1001話目を作る人の難しさは、正解がわからないことでしょう。評価されるのは、10年後や100年後かもしれない。それでも、まずは一手を打たなくてはならない勇気と創造性が、現代アーティストに求められています。その部分に、僕はすごくわくわくします。
現代アーティストのチャレンジや想いを話してもらいながら、アートを楽しむ。それによってさらにその作品が好きになりますよね。
第2部では、現代アートの楽しみ方をお伺いしました。第3部は、藤本君のこれからの仕事をお伺いしていきます。
個展開催情報 「庭と花瓶」
Respect the Artist 藤本 純輝 Atsuki Fujimoto
2024年2月5日(月)〜3月31日(日)
JBIG meets Art gallery
107-0062 東京都港区南青山 7-4-2 アトリウム青山
TEL: 080-5333-5238 pgcdkanri@pgcd.jp
開館時間 13:00〜17:00 不定休【完全予約制・入場無料】
個展来場予約はこちらから
http://jbig-meets-art-gallery-artist.square.site/