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【好評開催中の個展】藤本純輝氏 アート対談[パート1] 

~自分の世界観を見つけたとき、救われた気持ちになった~

JBIG meets Art Galleryの個展「庭と花瓶」では、アーティストの藤本純輝(ふじもと・あつき)氏のこれまでの作品や、新作を展示しています。藤本氏は、P.G.C.D.の石鹸のパッケージも手掛けました。

今回の対談では、その藤本氏をP.G.C.D.代表の野田泰平が全3回でインタビュー。まずは、藤本氏の「過去」について、今の作風が作られるプロセスなどを伺いました。

点や線を小さく描く手法から、布のきめ細かさにもこだわるように

野田泰平(以下、野田)
本日は、Maison de P.G.C.D.のサロンの部屋の中で、藤本君をお呼びしてアートをテーマにお話を伺っていきます。簡単な自己紹介と、アートとの向き合い方を教えていただけますか。

藤本純輝氏(以下、藤本)
京都造形芸術大学の大学院を修了し、そこからアーティストとして絵を描き、発表しています。現在4年目になります。作品は主に花や草といった自然物をモチーフとして、油絵の具で描いています。

特徴的なのは、キャンバスの布が剥き出されているということ。
草花がそこにあるものとして、本当に咲いているかのように描き出しています。作品自体に光が当たり、影が落ちる存在になっています。

野田
今の手法にたどり着いた背景や、これまでの葛藤などを聞かせてもらってもいいですか。

藤本
もともと自然物を描いていたのですが、最初の頃は真っ白な画面の中に、点とか線がちょこちょことあるだけの作品でした。本当に、ハエが止まっているような……。
「画面に対してそこまで繊細に点や線を入れるならば、普通のキャンバスでいいのだろうか」という疑問が生まれ、やわらかな線に合うような布を探し始めたんです。
繊細で薄い布では、下の木の木目が透けてしまうので、もう1枚重ね合わせました。その時に、「手前の布を切って枝のような形を作ったらどうなるんだろう」と、実際にやってみました。
そこから、布を重ねて切って抜き出し、植物を表現する作品が続いています。

野田
ちなみに、なぜ最初に植物をモチーフにしようと思い始めたんですか?

「パンジー_024」

藤本
自分にとって一番身近なもの、という理由が大きいです。
一般的に、アーティストや表現者は、表現したいものや、発信するための強烈な思い出などが大切だと思います。でも、自分にはそういう強烈な思いがなく、ただただ絵を描くのが好きなだけでした。

そんな中で身近にあったのが植物でした。幼少期から森や川でよく遊んでいて、自然が大好きだったんです。また、仏教やキリスト教といった考え方より、新道のような自然信仰的な考え方を持っているので、植物をはじめとする自然物はとてもしっくりと描けるものでした。

描きたいものが見つからなかったが、先生の言葉で抜け出した

野田
これまでの作家活動の中で、手が動かなくなったとか、前に進めなくなったような経験はありましたか?

藤本
学生の時にあります。植物のモチーフを見つける前は、描く対象がまったく見つかりませんでした。目隠しをしてただがむしゃらに体を動かしているような感覚です。頑張りたいのに、頑張る先が見つからないのです。

野田
そこから、どうやって抜け出したんですか?

藤本
ゼミの池田光弘先生の助言が一番の助けになりました。
当時の自分は、世間で格好いいとされた作家にあこがれて似たような絵を描いたり、力強い作品を書いたりしていましたが、「格好つけるな。自分にできないことはやらなくていい」と言われました。「あなたとその作家は性質が違う。真似したところでその人は超えられない。自分だからできることを見つけたほうがいい」と。

それまでの自分の描き方や価値観を落とそうと、ドローイングを何枚も書きました。数十枚くらいまでは、どこかで見た格好いいものに引きずられてしまうのですが、100枚ほどになるとそれらがそぎ落とされ、自分自身の表現が現れてきます。それが、画面に対して繊細に向き合って色や筆を置くような作品が生まれてきました。花や植物と佇まいが一緒だと感じて、モチーフにするようになったんです。

野田
面白いですね。その時、自分にハマった感じがあったんですね。

藤本
はい。それまでは、がむしゃらに何かをしたいのに、何もできない辛さがあった。でも、ようやく自分がしたいこと、伝えたいことが形になって、救われた感がありました。

視界の端に映る花や景色を描き出したい

野田
僕も建築デザインを学んでおり、欧米の建築に憧れがある一方、日本人の持つ「美」は独特だという印象があります。
建築家だった内田繁さんの言葉で「弱さのデザイン」というものがあります。例えば、障子は光も影も、音も香りも通す。でも、顔は見ることができないから、その人の顔を思い浮かべて和歌を詠んだと言うのです。藤本君の繊細さは、日本人の思う「美」と通ずるものを感じます。
初めて作品を見たとき、モネの作品のような印象を受けました。
「モネが藤本君のように若かったとしたら、これからどう成長していくのだろう」と、勝手に2人を重ねてわくわくした部分がありました。2人とも、モチーフをはっきりと描くのではなく、空気感をそのまま描いているように感じます。

藤本
ありきたりかもしれませんが、「余白を描く」ようにしています。
花が咲いている気配や佇まいを一番に描き出したいと考えていて、花が花の形をしていなくてもいいとさえ思っています。
お花畑に行ったときに、視界の端で咲いている花や木々の狭間を感じるように……。
だから、モチーフを目で見てそのまま描いているわけではありません。視界の端でちらちら見えている、という表現なのかなと思います。

野田
モチーフを見ながら描いているわけでなく、自分の記憶にあるものを描いているわけですよね。その部分に怖さはないんでしょうか?

藤本
僕にとっては、そちらのほうがいいんです。そこにある景色をそのまま描いても、平面に描いている以上、本当のものを描き出せるわけではない。そこに嘘があることに不満を覚えているので、花を生けた花瓶のような、そこに「もの」がある状態を作り出したいんです。

野田
自分で景色や植物を頭に浮かべられないといけないわけですが、心がけていることや習慣はありますか?

藤本
川沿いなど、自然の中を散歩するようにしています。朝と夕方では、水の景色も全然違う。そういうものを自分の中にストックしていきます。

野田
京都の藤本君のスタジオにお邪魔させてもらった時、スケッチやアイデアの種のようなものが部屋の至る所にありました。それは散歩したなかで残しているものだったんですね。
僕は、現代アートの楽しみ方は3つあり、「過去」「現在」「未来」だと思っています。今回は、藤本君の過去にどんなことがあって今の作品にたどり着いたか、その経緯をお伺いしました。
次回は、アートの楽しみ方を聞いていこうと思います。

個展開催情報 「庭と花瓶」

Respect the Artist 藤本 純輝 Atsuki Fujimoto

2024年2月5日(月)〜3月31日(日)
JBIG meets Art gallery
107-0062 東京都港区南青山 7-4-2 アトリウム青山
TEL: 080-5333-5238   pgcdkanri@pgcd.jp
開館時間 13:00〜17:00 不定休【完全予約制・入場無料】

個展来場予約はこちらから 
http://jbig-meets-art-gallery-artist.square.site/

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