洗うように描き布を重ねる、新たな手法で。~JBIG meets Art Gallery「庭と花瓶」のオープニングレポート~
JBIG meets Art Galleryでは、2月4日から藤本純輝氏による個展「庭と花瓶」を開催しています。オープニングイベントでは、お客様をお迎えして、藤本氏のアーティストトークを開催。P.G.C.D.代表の野田泰平とのアートについてのかけあいと、藤本氏による作品説明がありました。その様子をお届けします。
■展覧会ステートメント
森のざわざわや抜けていく風、草花をやさしく包む淡い陽光や空気の感触・気配を描き、展示空間に景色を作り出そうとしている。景色の持つ感触や気配を描き出すため、モチーフの持つ固有の性質や情景と、絵肌の質感や素材感とを互いに補完しあえるようにその都度選択・手入れを重ねる。やわらかでキメの細やかな布を重ねたり、削り剥き出すことで浮かび上がる花や空気の様相は、花や花をとりまく光・空気のたしかな気配を創出する。
■アーティストプロフィール
藤本 純輝 ( Atsuki Fujimoto ) 1997年 三重県生まれ。2021年 京都芸術大学大学院 芸術研究科 修士課程 芸術専攻 美術工芸領域油画分野 修了。
主な個展
2023年 「湖畔の城」ART GALLERY UMEDA(大阪)、2022年 「絵と木の葉、木から森への境界」ARTDYNE(東京)、「森の音、風の通り道」gallery trax(山梨)、「FLOWER GARDEN」CANDYBAR Gallery(京都)、「やわらかな午後の陽に」AIR賀茂なす(京都)、2021年 「MtK + Vol.3」MtK Contemporary Art .S(京都)、「Rose garden」FUGA Dining (東京)、「森のテラスで一杯の紅茶を飲む」Ace Hotel Kyoto 1階ロビーギャラリー (京都)
作者が直接語れるのが現代アートの大きな魅力
野田泰平(以下、野田):僕と藤本君の出会いは、京都芸術大学・美術工芸学科の椿教授からご紹介いただいたのが最初でした。椿教授とは、僕が参加している経営者団体で知り合いました。
椿教授の課題感は、学生さんたちがアートを売る機会に恵まれていないということでした。このままでは、卒業した後もアートで食べて行けなくなってしまいます。そのため、大学での成績だけでなく、アートを「届ける」ところまでの授業をやりたい、と椿教授は考えていたんですね。
僕たち経営者が学生さんたちの作品を見に行かせてもらうと、必ずしも評価の高い作品に人が集まる、というわけではなかった。アートとの向き合い方やモチーフの選び方、これまでの試行錯誤など、「自らの想いをプレゼンテーションでき、伝えられる学生」に人が集まるのです。
その時、生きているアーティストから直接過去や現在、未来を語ってもらえることが、現代アートの大きな魅力のひとつだと学びました。
伝える力の大切さを知った学生さんたちの中には、自分の作品を1年で1000万円くらい売る人も出てきています。アーティストの方が、自分の世界をしっかりと言語化でき、伝えられることがとても重要なんですね。それは、僕たち事業をやっている立場とも共通します。
私たちのできることとして、アーティストさんたちの想いを伝えるため、作品を作る姿や、思いを伝える言葉などを動画に撮らせていただき、また、作品をECで販売させていただきながら、若手の方の支援をしています。
立体的で、香りや風を感じる作品たち
野田:藤本君の作品を見て、モネのようだと感じました。精密に描いているわけではないのに、香りや風を感じる。作品の周りにそんな空間が広がっている感覚。ただ、今回の個展のために作った作品もあり、技法なども変わっています。今回の展覧会や、ひとつひとつの作品について、藤本君から教えていただけますか。
藤本純輝(以下、藤本):展覧会では、建物や場所の特性、歴史などを考えて、生み出せる景色を意識しながらテーマを考えます。今回は、「庭と花瓶」というタイトルにしました。
このギャラリーはとても穏やかな空間だったので、「部屋の中に庭があり、庭で摘んだ花が花瓶に生けられている」という空間を作り出したいと思いました。
今回、P.G.C.D.さんのソープのパッケージデザインとして包み紙を作りました。包み紙を開いていくと、ソープの香りとともに花が開き、お花畑に包まれるような感覚を呼び起こす。そういう体感を得られるパッケージにしたいと思いました。
開いたときに香る感覚が自分の中に残っており、今回の展示会のテーマにも通じています。
洗濯するように描き、布を重ね合わせていく
藤本:花を表現する時に、キャンパスに絵の具をペタペタと塗るのではなく、「そこに咲いている状態」そのものを描き出したい、というのが僕の想いです。そのため、布を抜き出したり、重ね合わせたりして花を表現してきました。物理的に遠近がある空間を描いています。
藤本:こちらの作品は、ソープに掛けたわけではないですが、本当に洗濯するように描きました。布の上部に長い筒を通してアトリエから吊り下げ、水で溶いたアクリル絵の具を付け、手でパンパンと叩きながら描いていったのです。
重ね合わせた布の裏側が濃い色になっていて、手前に薄い黄色などを載せています。色を付けた布を重ね合わせると、花が浮かび上がってくるようになっています。
「庭と花瓶」というタイトルに合わせて、庭を表現しています。ここで摘んだ花を、別の作品で花瓶に生けています。
野田:この描き方は、藤本君にとって新しいチャレンジだったと思います。今までは、布を敷いて油絵で描くものだったと思う。今回はアクリル絵の具を使ってにじみや布の重ね合わせを表現しています。どのようなプロセスでここに至ったんですか?
藤本:これまでと今回の作品は地続きで、自分の描き出したい条件や意識、追及していく先に今回の表現があったんです。野田さんの言葉を借りれば、手法はモネで、心はルノワールだと思っています。温かい、自分が描きたいものを描きつつ、手法はモネということになるのかもしれません。
野田:1枚布を重ねるだけで、今までの作品とはずいぶん景色が変わりますよね。でも、そこには花が咲いている空気感がある。新しい表現方法をどんどん生み出している、という印象を受けます。素晴らしい先輩たちがいる中で、アートに向き合いつつ新しいチャレンジをするには葛藤もあったのではないでしょうか。
藤本:アートの世界に答えはないと言われますが、やはりある程度の境界線はあります。自分の表現したいものと、世界が求めているもの、という分類はあると思う。その中で、自分が求めているものをやり続けたいと思っています。求められているものと合致すればいいけれど、もし違っていた時に、求められるところに寄せていく描き方は、面白くない。
自分がやりたいことで評価を得たい、という気持ちが強いのは、僕も先輩方も同じだと思います。だからこそ、あれだけたくさんの表現方法や、作品がたくさん生まれるのではないでしょうか。
庭にある石やコンクリートをイメージした作品や、庭の花を表現した作品
藤本:こちらは、他とは違う作品で、庭の石やコンクリートの壁などをイメージしています。絵の具を使わずに布を3枚重ねていて、深緑の布と、網目の布、その上に別の作品の布を重ね合わせて、色合いと表情を作り出しています。 近くで見ていただくと、空気の隙間などが面白いと思います。
藤本:使っているのは光沢のある布で、見る角度によってキラキラと光ります。春の温かい日差しに葉っぱが反射して、キラキラしている情景を描きたいと思って描きました。日中は外から刺す光がとても柔らかく、それぞれのレイヤーに入り込んで奥行きのある表情を見せてくれます。
その後、トークショーの参加者より、他に試した布の種類や、季節による作品の違いなどの質問が寄せられ、藤本氏が答えていく時間が設けられました。会場では、その後も個別に作品の説明をするなど、温かい空気に包まれた初日となりました。
執筆:栃尾江美
個展開催情報 「庭と花瓶」
Respect the Artist 藤本 純輝 Atsuki Fujimoto
2024年2月5日(月)〜3月31日(日)
JBIG meets Art gallery
107-0062 東京都港区南青山 7-4-2 アトリウム青山
TEL: 080-5333-5238 pgcdkanri@pgcd.jp
開館時間 13:00〜17:00 不定休【完全予約制・入場無料】
個展来場予約はこちらから
http://jbig-meets-art-gallery-artist.square.site/
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