WABI-SABI is the Essence of Japan Beauty.[前編]
経営者とお寺の副住職。立場の異なる二人だが、考えや信念には共通するものがあった。[前編]
JBIグループ代表取締役CEOの野田泰平とつながりのある松山大耕氏。経営者とお寺の副住職、まったく立場の違う二人だが、秘めている考えや信念には共通するものがあった。
日本人が持つ「美しい」とはなにか、どのような生き方や感じ方が大切なのかなど、お互いの視点から奥が深く、興味深い対談となったため、前編・後編の2回にわたりお届けします。今回は前編です。
「侘寂」の本当の意味とは?
「侘寂」とは、非常に上質であるというセンス
野田泰平(以下、野田) 大耕さんとは、ある会合での出会いをきっかけに知り合い、私が時折、お話を聴きに行くようになりました。あるとき、大耕さんが話していらっしゃった「侘寂(わびさび)」の観念が、すごく心に響いて。それは、私が日頃から大切にしてるものと同じだったからです。
「寂れる(さびれる)」って、本当は「朽ちていく美」を表す言葉。私の業界だとそれアンチエイジングって言って、「朽ちる」ことをネガティブだと捉えて、「アンチ」とする傾向があります。「寂(さび)」は、もともと人の「生」に対して朽ちていく美を捉えたもので、日本人が大切にしてきた考え方。それなのに、美容業界では、年齢に争うことが正義といった風潮に疑問を感じていました。
松山大耕(以下、松山) おっしゃるように、「朽ちの美」、「侘寂」っていうのは、いわゆるゴージャスであることや高価というわけではないけれど、非常に上質である、そういうセンスですよね。こうしたものには、人を惹きつける魔力があります。
例えば、代々受け継がれてきた茶碗などは、誰がそれを買うのかが重要ではなく、その物自体が持ち主を選んでいる、とよく言われています。だから、センスがないと買えないし、価値がわからない。こうしたセンスは、時空を超えてユニバーサルで通用する概念だと思うんですよ。
野田 私たちのお客様は、「エイジングは、ネガティブに捉えることではない」と思っていらっしゃる方々ばかりです。大耕さんの侘寂のお話を聴いたときに、この朽ちる美についてお伝えできれば、我々のお客様たちがより納得してくださり、エイジングに対して、「自分が持っている想いでいいんだ」という気持ちになっていただけるのではないかと。
松山 概して、「美しいもの」というのは、シンプルなんですよね。私が様々な場所に行って、いいなと感じたものの多くは、シンプルかつ永く続いているものです。一番印象に残っているのは、紀元前につくられたローマのパンテオン神殿です。
当時は、今のようにCAD(キャド)や計測機器もない中で建てられ、ましてや地震も起こるローマで2000年以上もずっと建設当時の姿で残っているわけですよね。天井がドーム状になっていて、中央の穴から光が差し込む造りは、一見すると非常に単純なようで力学的にはすごく計算されている。石や大理石をあのような形で2000年も保たせているんですから。そういうところが、永く愛されるものの条件だなと思います。
妙心寺の本堂も約420年前に建造されています。よく誤解されるのが、ミニマルデザインです。シンプルであることと手抜きの単純さを誤解されます。
野田 全く違いますよね。
松山 全然違うんですよ。シンプルであることと手抜きの単純さは。設計について考え抜いた後、本当に最低限だけど必要なものは全部あるという美学なんです。
この本堂は、釘を1本も使ってないので、ポータブルです。全てバラバラにすると、すぐに持ち出せますし、部屋も6室に区切れることができます。400年以上経っても、非常に使い勝手のいい建物であることは、すごいことやなと思います。
1杯の「お粥」に込められた「食」の奥深さ
野田 美しさには、時代に翻弄されることなく、また取り残されることなく、ずっとそこに存在できる耐久性があるんですね。ブームが来ると存在意義に差異が出ることもありますが、それは関係なくずっとそこにあり続けるってことは素晴らしいですね。
シンプルもおっしゃる通りだと思います。現代では、簡単かつ便利にするためにどんどん削っていくこと、全部捨てた後に残っているものがシンプルだという解釈もありますが、私は、シンプルって本質的なものが凝縮されたものこそが本当のシンプルだと考えています。
松山 それはどの分野においても言えることだなと思っています。例えば、料理。修行道場では、料理当番を「典座(てんぞ)」と言い、とても重要な役割を担っているんですよ。「影の修行」とも言われていて、今でも薪と井戸水を使います。典座は、命を預かる料理に関わるわけですから、ある程度修行を重ねた者しか担当できません。
野田 今も、薪と井戸水ですか。
松山 そうなんです。冬場は、手が荒れてすごいことになります。でも、実際料理をつくってる時間はそれほど多くはありません。おおよそ3分の1くらいなんですよ。何をしているかというと、実はほとんどの時間、掃除をしているんです。薪を使うことで、煤だらけになるので、毎回洗い物や雑巾掛けをしないといけませんし、灰も捨てに行かなければいけないし。表に出ない裏方仕事をひたすらやるのが仕事です。
料理において、最も難しいのは「お粥」づくりなんですよ。これは、料理人である義理の父も同意見でした。
野田 お粥!?意外ですね。
松山 お粥はすごく奥が深いんですよ。同じ水加減、同じ火加減、同じ時間って、同じ様にやってるつもりでも、日によって出来が全然違います。薪でやっているっていうのもありますけど、少し火加減が弱いと水分量が明らかに多いので薄く感じるし、煮過ぎると糊のようになってしまう。
私も半年間、典座をさせていただきましたが、自分で「美味いな」と思ったのは2、3回ほどしかありません。
でも、その2、3回の時だけは、おかずの梅干しも沢庵もいらないくらいのものができるんですよ。「うわ、美味いな!」っていうものが。まず、香りから違う。見た目も本当に透きっとしているんです。
本当にそれをいただいているだけで、身も心も温められているような感じです。美味いものをつくれとなったら、いいお肉を買ってきて、塩をかけて焼くだけでも成立しますが、お粥を美味しくつくるというのは、本当にどんな料理よりも難しいんです。
野田 手間ひまを省くことが西洋的な合理性だということに対して、日本では手間ひまをかけることこそが、真の合理性なんですよね。
松山 そうです。手間ひまを省くって、ファストフードなどパッと食べて美味くみたいな発想だと思うんです。
精進料理には「五味五法五色」、五味(五つの味)、五法(五つの調理法)、五色(五つの色)という基本があります。一般的な話ですが、五色は「赤、白、青、黒、黄」、五法は「煮る、蒸す、焼く、揚げる、生」。そして、「五味」は「塩辛い、香辛料の辛い、甘い、苦い、酸っぱい」から成りますが、実は精進料理には六味あり、最後は「淡い」。
この「淡い」というのは、食べた時にはわからないんです。でも、3、40分経っても、何か美味しいというものが残っているという感覚。これが「淡い」なんですよ。
なぜ「淡い」を大事にしているかというと、対極にある「濃い」味は、デミグラスソースとかステーキとかひと口で美味いものですが、毎食となると身体の負荷になるからです。でも、「淡い」であれば、毎食でも全く問題ないんですよね。
そういう意味でもサスティナブルと言えます。お粥には「10個のご利益がある」といったお経もあるんですよ。つまり、お粥が末長く必要とされているのは、本当に本質的なものであるからなんです。
手間ひまをかけることが永く愛される本質
「すでにあるものを生かす」ことが禅の教え
野田 私たちが販売している石鹸は、お客様に購入していただいただけでは商品としてまだ未完成なんです。未完成な商品をお客様にお届けして、お客様の手の中で最終的に「泡」という商品をつくってもらって初めて完成します。
ワンプッシュで泡が出てきた方が便利だと言われることもありますが、そうすると汚れを落とすためだけの道具になってしまいます。
P.G.C.G. JAPANのお客様たちは、きっと朝晩、石鹸を泡立てながら、自分と対話されていると思うんです。朝は、「今日はこんなことがあるな」「今日は肌も体調も調子がいいな」って、その日の予定や自分の様子を見たり、夜には、「今日こういうことがあったな」と1日を振り返ったり。そうやって、自分でつくった泡で洗顔しながら心もクリアにして、新しくなった自分と対面することで、ご自身のオンオフのスイッチにしてくれている。
私たちのお客様は、単なる汚れを落とすための洗顔石鹸を求めているのではなくて、毎日、丁寧に手間ひまをかけて自分を美しくする、大切にする、そんな生き方を購入してくださっているんだと思っています。
松山 手間ひまをかけることの合理性という点で、実は禅は非常に効率的な教えなんですよ。現代では、合理性というと、一般的に時間的効率と金銭的効率を優先しますよね。でも、禅でいう効率とは、物を主体とした合理性なんです。「ものを生かす」という。
例えば、この庭の砂利。一般的に考えたら、砂を掘って捨てて、購入した新しい砂利を入れる方が安価で簡単です。でも、手間ではあるけれども、わざわざ砂を掘って、洗って、砂利の振り分けていくと、本当にいいものができます。妙心寺の住職は、残って細かくなった砂利でミニチュアの石庭をつくっていました。これは、「すでにあるものをどうやって生かすか」っていう発想がないとできないことです。
野田 修行の上でも、「ものを生かす」ということについて、すごく考えさせられるんですね。
(後編に続く)
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