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苦しむ子どもたちを包み込む HUG for ALLに聞く【子どもの貧困を変えたい】

NPO法人 HUG for ALL(ハグ・フォー・オール) 代表 村上 綾野×P.G.C.D.代表 野田 泰平[パート1]

なぜ、子どもの貧困が起きているのか考えたことはありますか? 2018年の厚生労働省の国民生活基礎調査から、貧困とされる所得で暮らす18歳未満の割合「子どもの貧困率」は13.5%、子どもの7人に1人は貧困状態にあるといわれています。問題は世帯収入だけではなく、親子を取り巻く要因が複雑に絡み合って起きているのです。

今回は、P.G.C.D.代表 野田と10年来の知人で、NPO法人 HUG for ALL 代表 村上 綾野(むらかみ あや)さんをお招きし、子どもの貧困と未来のための活動についてうかがいました。

■対談参加者プロフィール
HUG for ALL 代表
村上 綾野(むらかみ あや)
1978年京都府生まれ。2013年からNPO法人ブリッジフォースマイルで児童養護施設の子どもの進学支援プログラムにかかわったことをきっかけに、社会的養護の子どもたちが向き合う“しんどさ”を知り、2017年にNPO法人HUG for ALLを設立。「すべての子どもに安心できる居場所と生きる力を」という願いを掲げ、現在は都内2か所の児童養護施設で活動を行っている。
HP:https://hugforall.org/
note: https://note.com/hugforall

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株式会社 ペー・ジェー・セー・デー・ジャパン 代表取締役CEO
野田 泰平
1979年福岡県生まれ。2010年に株式会社P.G.C.D. 日本を設立。「年齢を美しさに変える人」を増やすため、スキンケア・スカルプケアの商品を開発、販売。また、2019年にはホールディングス会社である株式会社JBI GROUPを設立。企業理念『Pay forward』を掲げ、“世界を幸せにする人を増やす”という使命のもと、サスティナブルな商品、サスティナブルな事業を創造し、社会と未来に貢献する。

日本の課題に向かい続けた2人

野田泰平(以下、野田)
今回はNPO法人HUG for ALL(ハグ・フォー・オール)の村上 綾野(むらかみ あや)代表に来ていただきました。よろしくお願いします。

村上 綾野(以下、村上)
よろしくお願いします。

野田
村上さんと出会ったのは10年前。僕らは日本元気塾という勉強会で知り合いました。当時は「あやや」なんて呼んでいましたね。HUG for ALLができたのは日本元気塾を卒業した後だったと思うけれど?

村上
そうです。日本元気塾を卒業後、3年位経ってから始めました。

HUG for ALL ウェブサイトより

苦しむ子どもたちに向き合い始めたきっかけ

野田
村上さんがHUG for ALLを創らなきゃと思ったきっかけを聞かせていただけますか?

村上
日本元気塾に通っていた頃、私は「日本の子どもたちを幸せにしたい」という思いを持っていました。でも、「日本の子どもの7人に1人が貧困」と耳にしたときすごくショックだったんです。今でこそ多くの人に知られているけど当時はほとんど知られていない情報でした。

私はベネッセコーポレーションという会社で、「子どもたちが勉強できるように、よい成績を取れるように支援をしているんだ」と思っていたけれど、私が見ていた子どもたちのなかに、この「7人に1人」の子どもは入っていないなって気がついたんです。

この1人のために何かできることがないかなって考え始めたのが、日本元気塾に通い始めた頃だったんです。

野田
ちなみに、貧困の定義はどのように決まっているんですか?

村上
たぶん、世帯収入の平均の半分以下…という感じですね。(編注:厚生労働省の調査では、世帯の可処分所得をもとに子どもを含む一人ひとりの所得を計算し、中央値の半分に満たない人を相対的貧困という。そのうち18歳未満の子どもが相対的貧困におかれる状況を「子どもの貧困」と表現する)

野田
収入をもとにした基準なんですね。分かりやすいイメージは食べ物だと思うけれど、それ以外でどういう点で大変な思いをしているんだろう?

村上
例えば、そもそも親御さんの仕事が不安定だったりすると、親御さん自身の心が不安定になりやすいということがあります。なかにはシングルで夜のお仕事をしている家庭もあります。親御さんの生活が昼夜逆転してしまうと、子どもの生活習慣が乱れやすくなったりするんですよね。あと、単純に、食費や光熱費の問題で、食事を三食摂るのが難しかったり、お風呂に毎日入れなかったりすることもあります。また、家庭の状況によっては、服も清潔なものを用意できなくなる…ということもあります。

また、家庭内の言葉遣いが荒く喧嘩が絶えない生活が日常になると、子ども自身も言葉が荒くなってお友達との関係が悪くなってしまう。そういったことから、学校でのいじめ等に発展するケースもあります。

そのような点で、食べ物以外の課題もたくさんあると思います。こどもの貧困と一言でいうけれど、近くに虐待、いじめなどのいろいろな問題がつながっているのが現実なのだと思います。

野田
それを知るきっかけは、どこにあったんですか?

村上
日本元気塾のセミナーで、NPO法人 Teach For Japanの松田悠介さんの講演会を聴いたとき、日本の子どもの貧困についてお話を伺ったのが最初のきっかけです。

元気塾の活動で、ビッグイシューの販売を手伝ったのを覚えていますか?

野田
あったあった。新宿でありましたね。

村上
あのとき、ビッグイシューの担当の方が「最近、若年ホームレスが増えている」とお話されていたんです。児童養護施設出身で知的障害のある男の子がなりやすいと。なぜだと思います?

野田
それは……。女性なら性産業などの働き口が想像しやすいけれど、男性はないとか?

村上
それもありますね。でも、なぜ知的障害の男の子が?

野田
情報が得られず、支援を受けられる場所を知ることができないから?

村上
確かに、情報が得られないというのは全般的な課題としてもあるのですが…。
実は、生活に困窮した男の子は犯罪に巻き込まれるケースが多いんです。SNSで「割の良いバイト」と言われて詐欺の受け子に手を出してしまうとか。でも知的障害のある子は失敗しやすく、犯罪組織からもはじかれた結果、行き場をなくして若年ホームレスになるんだそうです。

そんなことがあるんだと……。私はそれを聞いた当時、児童養護施設のことも知りませんでした。そこから調べ始めて、児童養護施設の子どもたちを支援するボランティアをまずやってみようと思って関わり始めました。

悪者なんていない。すべての人の辛さを包み込むために

野田
……すごいストーリー。ちなみに僕は、HUG for ALLという名前がすごく好きで素敵だなと思うんだけれど、なぜこの名前にしたのか由来を教えていただけますか?

村上
子どもたちをハグしたい・抱きしめるような気持でかかわりたいという想いはもちろん込めているけれど、子どもたちだけでなく、育てる親御さん、周りの大人たちもみんな痛みを抱えているはずなんですよね。
 
私、世の中に悪者なんていないと思うんです。みんな苦しい。その苦しさを包み込んでいけるような、誰も悪者を作らないような団体でありたい。しんどい子もそうだし、一見、しんどくなさそうな子ももしかしたらしんどいかもしれない。
 
私たちはそういう世の中、みんなに目を向けて、みんなが幸せになれるように活動する団体になりたいという気持ちを込めて、HUG for ALLという名前をつけました。

野田
この名前に思い至った出来事はあります?

村上
児童養護施設のボランティアをしていたとき、ある18歳くらいの女の子がよく手をつなぎたがったんですね。

彼女は親御さんとの関係性があまり良くなく、つらい生い立ちの子で。手をつなぐだけじゃなくて、ハグしたりするとすごく恥ずかしがるんです。でも、「抱きしめられるのは恥ずかしいけれど嬉しい」って話してくれて。ハグには物理的なパワーがあると思ったんです。

とはいえ、実際に抱きしめるのが難しい場合もあるのですが、そんなときでも心で抱きしめることはできると思うんです。相手を抱きしめるように共感的に話を聞き、彼・彼女たち一人ひとりの気持ちを受け止めているだけで、子どもたちの表情や接し方が変わってきたんです。そんな安心感をみんなに思ってもらえたら、世の中でもっと幸せになれるんじゃないかなって。

野田
HUG for ALLの名前を聞くだけで、こう、泣きたくなってしまう。なんかこう、そういう深い関係の人との愛が足りていない。でも悪者がいるわけではない。貧困にある子どもたちも、その親も大変で、親もハグして欲しいのかもしれない。(追い詰められて)虐待につながることだってある。

衣食住の貧困は一面で、ある意味、愛に対する貧困なのかもしれない。底の深い問題だと思いました。

村上
そうなんです。貧困って単純にお金が無いってこと以上に、つながりが持てないところにすごく苦しさがあると感じています。おっしゃるように、親も子も支援やサポートを受けられる場所が絶対あるはずなんだけれど、そういう大変な状況にある家庭はどんどん孤立してしまう。

親子の孤独をそのままにしてしまうと、子が成長したあとも同じことが起きてしまう。

だから、そういう子どもたちにずっと寄り添い続けて孤立させないように、次の世代に孤立する子をつくらないために、長期的な関わりを続けることで結果が出るのかなって思いながら活動しています。

一人ひとりの生きる力を育み、可能性を見出す活動

野田
活動内容は具体的にどのようなことを?

村上
私たちは、都内の2つの養護施設でそれぞれ活動をしています。

 1つは小学1年生から高校3年生までの子どもたちで、年齢に合った支援を行っています。小学生は「まなびクエスト」というプログラムを通じて、学ぶ力と生きる力を対話しながら育みます。中学生以上になると「はたちクエスト」という社会に出たあとの生活や社会のこと、自分のことを一緒に考えるプログラムを提供しています。

もう1つの施設は小学生が対象で、「まなびクエスト」のプログラムと併せて、「あそびクエスト」というプログラムを実施して、子どもたちといっしょにいろいろな体験をしています。その子の強みを大人たちと探していく宝さがしみたいなプログラムです。

野田
プログラムごとの特徴を、より詳しく教えていただけますか?

村上
では、まず「まなびクエスト」について。私たちはもともと学習支援をしていました。でも、学校の勉強って嫌いな子がすごく多いんです。

児童養護施設の子どもたちはそもそも家庭環境が厳しく、勉強どころじゃなかった子も多い。虐待をはじめさまざまな理由で一時保護を受け、学校に行けなかった期間の学習が抜けているケースもあります。

例えば、掛け算がわからなければ、その後に続く分数もわからなくなりますよね。プリントを渡すと、5年生の子が2年生のプリントをやりたがるということもよくあります。自己否定感が強い分、答えを間違えたときに、「自分はダメだ」と思うのが怖いという気持ちがあるんだと思います。

「やってみよう」とか、「間違えてもいいじゃん。頑張ろう」って伝えても受け入れられない。その勉強に向き合う前のところに子どもたちのしんどさがあるなと思うんです。なので「まなびに向き合う力」を育むプログラムとして「まなびクエスト」を始めました。

「最近、学校でどんなことしてる? 」、「勉強って、なんでやると思う? 」、そんな雑談をしながら自分のなかで整理して話すことも、子どもたちにとっての学びだと私たちは考えています。

「学び」というものを学校の勉強という範囲で捉えるのをやめると、いろんなところに「学び」があるということに気づきます。なので、私たちは子どもたちが主体的にやろうと思えることを大事に、一緒に取り組みたいと考えています。一緒に取り組む中から1つでも成功体験を得て、自信をもち、「次がんばるぞ」、「自分もできるかもしれない」って気持ちをつなげていこうというのが、このプログラムのコンセプトです。

野田
ちなみに、この「あそびクエスト」は?

村上
これはアートや運動、プログラミング、理科の実験など、いろいろなことを月1回やっています。それをきっかけに、子どもたち一人ひとりが興味をもつこと、好きなこと、得意なことをいっぱい見つけていくプログラムです。

「まなびクエスト」は学習や対話が中心になるので、ほかの強みは見つけづらいんです。勉強は5分も集中できないけれど、ものづくりになると1時間以上集中できる子、ものづくりの中でも工作は苦手だけれど絵を描くのは好きな子。「あそびクエスト」はいろんな体験をするからこそ、多様な子どもたちの得意や強みを発見できるんです。

HUG for ALLのボランティアメンバーが見つけた子どもの強みを、児童養護施設の職員の方々や子ども自身にフィードバックすることで、3者間でその子の強みを可視化できます。そこから、将来になにかつながるものが見つかるかもしれない。そんなふうに、子どもの可能性をしっかり可視化することをこの「あそびクエスト」では実現したいと思って取り組んでいます。

野田
なるほど、ありがとうございます。
次回も、HUG For ALLの活動と、日本の課題について俯瞰した話をお聞かせ願えたらと思います。よろしくお願いします。

執筆:ふじね まゆこ

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HP:https://hugforall.org/

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