社会に出た後も孤立する子どもへ【子どもの貧困を変えたい】
NPO法人 HUG for ALL(ハグ・フォー・オール) 代表 村上 綾野×P.G.C.D.代表 野田 泰平[パート2]
児童養護施設に入所する理由の45パーセントは虐待といわれています。背景は家庭によってさまざまですが、子どもたちは人生で一番大事な時期に安心できる場所と学ぶ権利を奪われてしまうことになり、その後の人生に大きすぎる影響を及ぼします。
パート1に引き続き、児童養護施設に通う子どもたちを支えるNPO法人 HUG for ALL 代表 村上 綾野(むらかみ あや)さんに、児童養護施設にいる子どもたちが入所する背景や環境、退所後に求められる支援についてお聞きします。
児童養護施設とはどんなところ?
野田泰平(以下、野田)
今回もNPO法人HUG for ALL(ハグ・フォー・オール)の村上さんにお話をうかがいます。よろしくお願いします。
前回、HUG for ALLの活動に触れましたが、この「まなびクエスト」「あそびクエスト」と2つ作った背景を教えていただけますか?
村上 綾野(以下、村上)
前回もお伝えしたとおり、私たちは子どもたちの学習支援から始めました。ただ、子どもたちと関わるうちに「この子はもっと才能を発揮できるものをもっているな」とか、「この子たちといろいろな体験をしたい」と思うようになりました。
そこで、児童養護施設の職員の方々にご相談しながら、体験型のワークショップを始めました。実は、HUG for ALLでは活動の初期から単発のワークショップをしていたんです。これを、2021年ぐらいに「まなびクエスト」とあわせて「あそびクエスト」と命名し、今もブラッシュアップを続けています。
野田
児童養護施設の学習支援はどのようなもの?
村上
施設によって違いますね。大学生ボランティアによる学習支援を行っている施設もあります。最初に私たちが支援させていただいた施設は、大学生が通いづらい場所にあったので、施設の状況に合う学習支援を一緒に考えてほしいということでご相談いただいた背景があります。
児童養護施設の職員さんは、とにかく忙しいんです。多くの施設は子ども5、6人を1つの生活支援ユニットに分けて生活しています。1ユニットにつき担当職員が複数名ついて子どもたちの生活を支えます。
野田
何も知らなくて恐縮だけれど……、養護施設の子は自宅から通う子もいるもの? それとも寝食を共にしている?
村上
寝食を共に生活しています。子どもにとっては「家」にあたると思っていただくといいと思います。なので、施設の職員さんは、家で言うと「親代わり」になります。子どもたちの食事から身の回りの世話、学校とのやりとりなども含めて職員の方が行っています。
施設によって職員の人数やシフトの組み方が違うでしょうけれど、おおよそ子ども6人を1人~2人の職員が常に見ているという感じですね。
6歳から12歳くらいの子ども6人と大人2人の8人家族を想像してみると…。掃除、洗濯、炊事、日々の生活だけで手一杯になりますよね。
野田
それは想像に難くないですね……。 施設によって提供されるサービスや方針はバラバラなもの?
村上
そうですね。生活ユニットの組み合わせ方でも、男女異年齢で兄弟のように生活する施設もあれば、ある程度の年齢、性別で区切るところもあります。
野田
利用する施設は選べるもの?
村上
基本的に選べません。今、特に都内では児童養護施設の定員もいっぱいだったりして、一時保護の期間が長引いてしまう子がいるくらいなんです。保護を必要とする子どもに対し、受け入れる社会の枠組みとしては不十分じゃないかと思います。
児童養護施設へ入所する背景
野田
子どもたちを連れてくるのは誰でしょうか? 親が連れてくるケースはある?
村上
おそらく、親御さんが連れてくるケースはほとんど無いと思います。児童養護施設に入所する理由の45パーセントは虐待と言われていて、次が親御さんの精神疾患、経済的困窮と続きます。これが三大理由です。
野田
いわゆる児童相談所が、子どもたちを保護する役割を担っている?
村上
児童相談所のことはあまり詳しくないのですが…。本当にさまざまな事案に向かいながら、それぞれの子どもをなるべく良い手段で保護しようと、各施設と連携しながらサポートしている組織だと思います。
野田
お話をまとめると、児童養護施設での共同生活で得られない機会や手段を、HUG for ALLとして支援をしているということですね?
村上
そうですね。施設の職員の方々は、やりたい気持ちや高いスキルを持っていらっしゃるのですが、とにかく時間が無いんですよね…。子どもたちへ機会を設けたくても、それを準備し見守るための、人的リソースも時間も足りない。
そんな背景から、子どもたちのために、私たちの活動を受け入れてくださっているのだと思います。
野田
すごいことをやっているんですね。本当に素晴らしい。
村上
何よりも子どもたちに毎日寄り添っている職員のみなさんが一番素晴らしいんです。
私たちは月1回だけ子どもたちと過ごして、その子の強みを見つけたり、仲良くしたり、斜めの関わりをしています。こういう「外からのかかわり」があることで、子どもたちと職員さんの関係がより良くなるようにしていきたいと思っています。
18歳で施設を出る子どもたち。頼れる大人を1人でも増やしたい
野田
先ほどご紹介いただいた「はたちクエスト」の内容と、なぜこれが「まなびクエスト」と「あそびクエスト」と別で必要になったのか教えていただけますか。
村上
児童養護施設の子どもたちは、18歳になると原則的には施設を出て1人で生活を始めます。なので、18歳になった時に1人で生きるための準備がやっぱり必要だと思うんですね。
自分はどういう進路に行きたいんだろう? どういう未来を描きたいんだろう? どういう生活をしたいだろう? みたいなことを考えるのが「はたちクエスト」です。
中学生のうちは自分自身と向き合い、人間関係や社会を知ることを中心にしています。
高校生になると一人暮らしを想定して、進路のことや生活のことを、一緒に調べ、考えます。例えば、就労して一人暮らしをするとお金がいくら入ってきて、いくら出て行くんだろう? など、具体的な話をします。
野田
18歳というと進学を希望する子もいるのでは?
村上
大学進学率は一般的な家庭の子と比べるとかなり低く、専門学校を入れても日本全体の平均の半分ぐらいなんじゃないかと思います。ただ、おそらく年々上がってきています。
なぜ進学率が低いかというと、ひとつは金銭問題です。子どもたちは頼れる家族がいないことが多いので、ひとりで自立した生活をしなければいけない状況です。そうすると生活費も家賃も学費もすべて自分で何とかしないといけない。お金の面で悩んで就職する子が多いというのが現状です。
ただ、その面で課題意識を持つ方々もいます。児童養護施設の子どもたち向けの奨学金や、児童養護施設の子供たちの授業料を免除してくださる大学があり、進学のハードルは十年前と比べると下がっている印象があります。
野田
なるほど。一方で、養護施設出身の子が犯罪に巻き込まれるといったデータはあります?
村上
数字としては出ていないので聞いた話になってしまうんですが……。養護施設で知り合った子の中には、専門学校を出た後、諸事情で夜の仕事に就いた子がいます。そこでは自分と同じようにしんどい思いをしながら育った子がいると話してくれるんですね。
データは無いけれど、家庭に居場所がなくてつらい思いをしてきた方々がいると思われます。
野田
先日、経営者団体主催の勉強会で少年院に行く機会があって。そこで聞いたのは、少年院を出た人のうち半分は、出所後に再犯で刑務所へ行くんですって。一度、刑務所に入るともう上場企業の経営者になれない。でも、少年院までなら上場企業経営者になれる。少年院を出た後に再犯しなければ、起業家として成功できる可能性があるんです。
少年院にいた子の中には罪を犯したように見えない子もいました。聞くと、無理やり犯罪になることをやらされたり、よくわからないまま巻き込まれたりして少年院にいる子だったんですね。
そういう子がすべてではないけれど、そこにいる子どもたちの選択肢は少ないんじゃないかと思いました。卒業後の進路だけではなく、自分の中の「これができる」、「これをしたい」といった内面的なものも含めて。この子たちに目標や希望となる姿が見えないと、また悪い方向へ進んでいってしまうんじゃないかな。
その子の出生や生い立ちの問題でもなく、大人になった後の問題でもない。日本の問題として、向かい合わなきゃいけない問題だと思いました
村上
そうなんです。この「はたちクエスト」の対象は25歳まで。施設を出た後もサポートを続けることを施設と約束をしているんです。野田さんが言ってくれたように、進学後、就職後の生きづらさはすごく感じます。
東京都の調査では、施設を出て就労した24歳までの若者のうち、4分の1くらいの子は1年以内に就労した仕事をやめています。これは結構、インパクトの大きい数字だと思うんですね。
野田
ええ、すごいね。
村上
おそらく、就職先とのアンマッチ以外にも要因はあると思うんです。子どもたちが人生の道のりを深く考え切れないまま起こってしまうことだと。
どんな人も就職してうまくいかなくて、しんどくなってやめちゃうことってありますよね。もし親子関係が良好だったら、就職後1年以内にやめたくなっても親御さんに相談すると思うんです。
でも、彼ら彼女らには気軽に相談できる大人がいない。児童養護施設の職員さんに相談したくても、施設の忙しさを知っている子どもたちが遠慮して、声をかけないまま仕事をやめてしまう。自分1人でなんとかしようと周りに相談できないまま、どんどん変な道を選んじゃう。
周りに信頼できる大人が少ないことが、彼ら彼女らの苦しさを助長してるんじゃないかなって思うんです。
なので、私たちはこのプログラムで子どもたちのいいところ、強みを伸ばすことと同時に、信頼できる大人という存在を作りたい。社会に出た後、壁にぶつかってもそれを支えられるような存在になりたいと思っています。
野田
素晴らしい。HUG for ALLさんの事業と子どもの貧困の現状について、前回よりさらに深堀りしてお話していただきました。
次のパート3でも、子どもたちを取り巻く社会の全体像を深めていけたらと思います。ありがとうございました。
執筆:ふじね まゆこ
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