子どもたちのためにできること【子どもの貧困を変えたい】
NPO法人 HUG for ALL(ハグ・フォー・オール) 代表 村上 綾野×P.G.C.D.代表 野田 泰平[パート3]
孤育て、貧困、虐待など、子どもを取り巻く社会的課題は複雑です。私たちは苦しむ子どもたちに、どうやって手を差し伸べたら良いのでしょうか。
パート1、パート2に引き続き、児童養護施設に通う子どもたちを支えるNPO法人 HUG for ALL 代表 村上 綾野(むらかみ あや)さんに、児童養護施設の子どもたちと、世の中の苦しい思いをする方々にできることを教えていただきました。
苦しむ家庭を支える「社会的養護」の仕組み
野田泰平(以下、野田)
これまでのお話から、子どもたちを取り巻く社会環境のことも、支える仕組みのこともまったく知らなかったと改めて気づかされました。この動画をご覧のみなさんもぜひ一緒に学んでいただけたらと思います。社会の現状や施設の子どもたちの今についてお話いただけますか。
村上 綾野(以下、村上)
わかりました。まず、社会がもつ仕組み「社会的養護」について説明したいと思います。この言葉、聞いたことありますか?
野田
いや、ないですね。
村上
社会的養護とは、いろいろな事情により家庭で教育がされない子どもたちを社会で養育していこうという仕組みです。社会には当然、私も野田さんも、この動画を観ているみなさんも含まれています。
社会的養護で養育される子どもたちは、児童虐待や、経済的困窮、親御さんと離死別などいろいろな事情で家庭での養育が難しいお子さんたちです。その子どもたちを家庭ではないところで育てるという支援、枠組みが社会的養護に含まれます。
とはいえ実際、対象の子どもたちは社会の人々に見えていないと思っています。
村上
私たちが支援している児童養護施設も社会的養護の枠組みのひとつです。施設の割合でいうと半分以上ですね。全体で4万2千人ぐらいの子どもたちがこの社会的養護のもとで生活をしています。
児童養護施設の次に多いのが里親家庭です。今、里親になる方が増えていて、里親さんのもとで育てられる子が増えています。ただ、さまざまな事情で里親制度の利用が難しい子も多くいることから、施設で生活する子どものほうが多いと思われます。
野田
なるほど。ちなみに社会的養護を受ける子どもたちの数は増えている?
村上
社会的養護全体でいうとほぼ横ばいです。
野田
少子化が進んでいるのに、社会的養護を受ける子どもたちの数は変わらないと。
村上
やっぱり(社会全体で)子どもを育てるのが難しい、しんどいご家庭が増えているということかなと思いますね。
データを見ると、児童養護施設にいる子どもの数は減っています。これは里親制度で受け入れて下さる数が増えているからです。子どもたちが家庭的に擁護され、家庭がどういうものかちゃんとイメージしながら育っていくことはすごく大事なことですから。
野田
そういう背景があるんですね。
村上
児童養護施設は戦後、孤児院から始まった施設が多いと聞いています。当時は多くの子どもたちを集めて生活の面倒を見るというところからスタートだったと思うんですが、家庭的養護という言葉が一般的になるにつれ、ほとんどの施設が大人数をまとめて見守る形から小規模で家庭的なケアをする形に変わっています。
ちなみに、児童養護施設は全国で600以上あるのですが、実際に見たことってあります?
野田
いや、見たことないです。どこにあるのかも知らないですね。
村上
そうですよね。そもそも児童養護施設って言葉を聞いても、具体的に何の施設かわからない方は多いと思います。
児童養護施設はシンプルに子どもが家族と離れて生活する施設です。昔は特別支援学校(心身に障害のある児童・生徒が通う学校)を養護学校と表現されていたことも混乱を招きやすい要因だと思うのですが、障害を持つお子さんのための施設だと思っていらっしゃる方も多くて、まだまだ知られていないと感じます。
野田
ちなみに、児童養護施設で暮らす子どもたちは学校に行くのですか?
村上
はい。子どもたちは基本的に、施設から地元の小学校、中学校へ通います。
野田
施設が家庭の代わりになっていると。もし不登校やトラブルに巻き込まれたときは、職員の方がケアしなければいけないってことですね。
村上
そう。例えば不登校の場合、子どもたちには学校に行けなくなる理由があるんですよね。学校生活がしんどくなっちゃったり、過去の経験がフラッシュバックしちゃったりして落ち着いて学校で過ごすことができないなど……。本当にいろいろな理由で学校に行けなくなる子がいます。
同じ状況は多くの家庭で起こりうると思うんですけれど、施設の子どもたちが不登校になると学校に行けない間も職員さんがケアすることになります。(業務過多もあって)児童養護施設の離職率は高いです。すごく難しい問題だと思います。
野田
伝え方やコミュニケーションの取り方が、親子と違ってすごく難しそうです。
村上
職員のみなさんは、プロフェッショナルとして子どもたちとの関わり方を考えながら伝える工夫をされています。自己肯定感が高くない子も多いなかで、子どもたちの気持ちを丁寧にケアして、やるべきことをしっかり伝え、コミュニケーションをしていらっしゃる姿は、本当にプロフェッショナリズムだなって思います
虐待と子どもの自己肯定感
野田
なぜ、その子たちは自己肯定感が低いんだろう?
村上
乳幼児期に虐待やネグレクトを受けて愛着形成がなされなかったお子さんが多いです。児童養護施設で暮らしてる子どもたちのうち3人に1人は虐待を受けた経験があると言われています。
あくまで個人の体感としてですが、9割は虐待を受けているんじゃないかなと児童養護施設の職員さんから聞いています。
野田
9割ですか……。
村上
ほとんどの子が虐待を受けて施設に入っているのが現状です。心の傷は相当大きいもので、なかなか自分自身に価値があると思えません。基本的信頼や自己信頼が作られるのは乳幼児期で、自分の声に周りの人が応えてケアをされた経験がベースになります。子どもたちはそれがない状態で、自分を信じる力を取り戻していかないといけない。
子どもたちは施設での生活で自他ともに信頼する気持ちを取り戻そうと暮らしています。心が安定した状態の維持が難しく、ちょっとしたことで崩れてしまうこともあります。
大人だって心身ともに崩れてしまうと立ち直るのがすごく大変ですよね。子どもたちは本当にしんどい思いや経験をしていて、それらを自分の中に抱えながら頑張って生きている。そういう子たちなんです。
なので、私たちは、子どもたちに対して「虐待を受けていたから可哀想」というふうには思っていません。もちろん、その経験自体はすごいつらく悲しいことだけれど、子どもたちは可哀想な存在じゃないと思うんです。私たちが彼らを可哀想って思うのはすごい失礼です。
子どもたちは本当に、一人ひとり個性豊かで可能性に満ちています。だからこそ私たちは、彼ら一人ひとりの可能性に目を向けます。
しんどい思いをしてきた子どもたちに「しんどかったね。大変だったね。辛かったね」と伝えるよりも、「それを乗り越えて生きてるってすごいこと 」と伝えたい。そういうふうに周りの大人が伝えたら、彼らの生きやすさってすごく変わるんじゃないかなって思うんです。
ぜひ大人のみなさんに、社会的養護の施設にいる子や、それに限らずしんどい思いをして生きてきた方たちに「本当にすごいね」って気持ちで接してもらえると嬉しいです。
子どもたちのために、できること
野田
まだまだ聞き足りないんですけれど、最後にこの動画を見てくださっている人たちにメッセージをいただけますか。例えば、社会の一員として社会的養護のために何ができるのかを。
おそらく、やり方がわからない人も多いと思うんですよ。はじめの1歩のヒントになるようなメッセージをもらえれば。
村上
ありがとうございます。みなさん本当に、話を聞いていただいてありがとうございます。児童養護施設の子どもたちに限らず、今、日本中でしんどい思いをしている子どもたちはたくさんいると思います。みなさんの周りにも。もしかするとお子さんのクラスメイトや、近所のお子さんかもしれない。ちょっと気になるお子さんがいた時は声をかけてみてください。
ちょっと言葉がきつくて抵抗感がある子でも、その子の話をじっくり聞いてみてください。口が悪くて近づきづらいなら、ほんの少し、どういうふうにその子を受け入れられるか考えていただけたらとても嬉しいです。
さらにもう一歩、何かできることを考えていただけるならば、ぜひ児童養護施設のボランティア活動を調べていただけると嬉しいです。コロナが落ち着いてきたことで、ボランティアを受け入れる施設は多いと思います。
逆に、今は余裕がないけれど何かしたいと考えてくださるならば、いろいろな活動団体をまずは知ってください。児童養護施設というものをまず知っていただいて、それをお知り合いの5人に話していただくとか。そうするだけでも、子どもたちの生きやすさって変わるんじゃないかと思います。そんなふうにみんなで子どもたちのことを気にかけ、見守っていけると嬉しいです。
野田
ありがとうございます。日本が抱えている非常に大事な課題を教えてもらいました。特に最後のメッセージ。僕たちはどんな一歩も踏み出せると思います。僕自身も今のお話を聞いて、実際の現場へ見学にいきたいなと思いました。
少しでも心に残ることがあれば、この問題についてそれぞれの一歩を踏み出していただけたらと思います。本日はありがとうございました。
執筆:ふじね まゆこ
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