歯のケアは「磨きすぎ」もNG!【よく噛むことで肥満を解消し、認知症の予防にも】
医療法人社団 千寿会 理事長 本間 輝章×P.G.C.D.代表 野田 泰平[後編]
歯みがきなどで毎日目にする歯や歯茎について、私たちはどれほどの情報を持っているのでしょうか。正しい情報がわかると、歯や歯茎を大切にする必要性がわかり、より丁寧に毎日のケアができそうです。
P.G.C.D.代表 野田泰平と、医療法人社団千寿会の理事長であり、医療法人社団本間歯科 新松戸総合歯科診療所副院長である本間輝章先生の対談、後編です。具体的なケアの仕方や、年齢による変化、咀嚼の大切さなどを教えていただきました。
歯は年齢とともに摩耗していくが、歯肉は健康なまま保ち続けられる
磨きすぎると歯肉が削れてしまう
野田泰平(以下、野田)
先生は、日々たくさんの人の歯や歯茎をご覧になっていますが、どんなところを見て、健康状態を判断しているのでしょうか?
本間輝章(以下、本間)
まずは歯肉の見た目ですね。最近は、磨きすぎの方が多い。電動歯ブラシや音波ブラシをお使いの方もかなりいらっしゃいます。電動や音波の歯ブラシは歯にあてがうだけなのですが、手みがきのようにごしごしと動かすと歯肉が削れてしまいます。
また、歯磨き粉の中に含まれる研磨剤は、汚れが落としやすく付きにくい、という利点がありますが、強い力で磨くと歯肉が摩耗する原因にもなります。
歯肉が削れると、相対的に歯が縦に長く見えます。歯の根っこの部分が露出するので、冷たいものがしみる知覚過敏などの影響が出てきますね。
野田
歯肉が削れることにより、歯の見た目が変わるんですね。
本間
歯が長く見えるのは、それ以外の原因もあるんです。前編で申し上げた通り、歯肉とばい菌が常に戦っている中で、歯肉の敗戦が続くとその下にある歯槽骨が下がっていく。骨が下がると相対的に歯肉も下がります。
他に、歯みがきをあまりしないでいると、歯茎が真っ赤になってぶよぶよしていることがあります。過剰な炎症が起こり、病的な状態で歯肉が腫れて膨らんでいる状態です。
健康な状態であれば、歯と歯茎はぴたっとくっついて、歯の輪郭がとてもきれいな状態。見た目がきれいということは、中の骨も健康な状態だという指標になります。
歯は年齢とともに摩耗していく
本間
歯には年齢が出ます。なぜなら、毎日噛んで使うことで、必ずすり減っていくからです。
野田
大人の歯として出来上がった高さが、年齢と共に下がっていくイメージでしょうか。
本間
歯の表面にある凹凸が、食べているうちに減っているんです。だから、歯を見ればだいたい年齢が予想できます。
一方で、歯肉は、健康であれば年齢に関係なくよい状態を保てます。
歯肉の健康を保つためのケア
野田
ずっと歯肉の健康を保つためのケアとして、先生がおすすめの方法はありますか。
本間
毎日の歯みがきはもちろんですが、過剰に強い力で歯みがきをしないこと。また、定期的に歯科医院へ行ってケアをしましょう。
歯と歯茎の間に食べかすが停滞して時間が経つと、唾液のカルシウムと結合し、硬い歯石になります。歯石はいくら歯ブラシで取ろうとしても取れず、放っておくとどんどん下に行ってしまうんです。
野田
落ちていくんでしょうか?
本間
歯石は触手を伸ばすようなイメージで広がっていきます。歯石がくっついて歯槽骨が溶けると、さらに隙間が空きます。その隙間に新たに歯石が入ってくる、という悪循環で、どんどん進んでいきます。
ですから、若い方でも半年に一度、一般的に3ヶ月に一度は、歯科医院へ行ってクリーニングをして、歯石がない状態にしておきましょう。
身体を健康にしておくことも大切です。寝不足が続いたり、飛行機で長時間フライトして疲れていたりすると歯肉が腫れることがあります。女性の方なら生理周期などによる場合もあります。
身体の抵抗力が落ちると腫れたり痛み出したりするので、食生活や睡眠、運動により血液の巡りをよくして健康な骨を保つようにしていただきたいです。
噛む力には歯根膜が影響
野田
歯が弱くなると「なかなか噛めない」という声を聞きます。噛む力は何が影響しているのでしょうか?
本間
押しつぶす力は、あごの筋肉です。奥歯には体重の2~3倍くらいの力がかかると言われています。
ただ、病気を治された方など、しっかりと噛めない方がいらっしゃいます。虫歯で歯が痛いといった場合を除くと、前編でお話した歯根膜が大きく影響しています。
歯根膜はセンサーなので、炎症や病気があると、「噛んでいる」という情報を脳に送れず、むしろ「噛んでいない」という情報を送ってしまいます。
また、入れ歯には歯根膜がないので噛んでいる感覚が送られません。また、歯肉の上に載せているので痛くて強くは噛めない。入れ歯の噛む力は天然の歯の20~30%ほどなので、筋肉も弱っていき、食べ物を細かくしないと飲み込めないような状況になります。
ですから、天然の歯でしっかりと咀嚼をして食べ物を細かくするのは、筋肉の維持のためにもとても大切なことです。
しっかりとした咀嚼で、歯の本数や体型にも影響
よく噛むと筋肉と骨格が成長する
野田
子どもに対して、教育の場で「よく噛みましょう」とよく言いますが、これは正しいのでしょうか?
本間
子どものころから、噛む回数は多いほうがいいですね。
現代の子どもは顔が小さい傾向にあるので歯が入りきらず、矯正治療が増えています。本来、歯の大きさは「この人はきっとこれくらいの大きさになるはずだ」という骨格に合わせて生えてくる。乳歯の段階でよく噛んでいれば、あごの筋肉と骨がしっかりと成長すると考えられます。
ところが、あまり噛まなかったり、柔らかいものばかり食べていたりすると、筋肉も骨格も発達せず、歯が入りきらなくなるんですね。また、最近では、歯の本数が少なくなっている方もいます。
野田
骨格に合わせて歯が少なくなっているんですか?
本間
進化なのか退化なのかわかりませんが……。本来、親知らずを除くと成人の歯は28本あります。ところが生まれつき、前歯の2番目の歯がない方がいるんです。
親知らずも同様です。もともとない方や、顎のスペースがなく手前にぶつかって出てこられない方も。また、横向きに生えてくると、大変な思いをして抜くことになります。
噛む回数と肥満の関係
本間
噛む回数と肥満にも関係があります。早食いの方は太っている場合が多いというデータがあります。本医院でも、ダイエットに悩む方がたくさんいるので「1か月間、一口につき30回噛んでください」とアドバイスしています。実行すると皆さん痩せますよ。
噛む回数を多くすると、センサーである歯根膜が「もうお腹いっぱい」という信号を脳に送るんです。
野田
なるほど。それで食べる量が変わってくるんですね。
本間
フードファイターの方はあまり噛んでいませんよね。もし、一口ごとに30回噛んでいたらあの量は食べられません。
また、よく噛むと唾液がたくさん分泌されます。唾液の中の酵素は、口の中ででんぷんを糖に分解します。それによって、食べ物が身体に入った時の血糖値の上がり方がゆるやかになり、糖の吸収量が減ることがわかっています。
つまり、よく噛んでいる方は太りにくいんです。
歯の健康が、脳の状態や身体の健康を左右する
野田
子どもだけでなく、成人になってからも、噛む回数は大事なんですね。
本間
噛む回数を多くすることに加え、噛めない歯を作らないことが大事です。歯の本数が減ると、噛む面積が減ります。噛む面積が減ると、歯根膜から脳に送られる信号が少なくなります。そのため、歯の本数が少ない方は、認知症になりやすいことが分かっています。
1989年から「8020運動」と言われ、80歳になっても20本の自分の歯を保つことが推奨されていますが、20本の歯がある方で認知症がすごく進んでいる方というのは少ないです。
また、体のバランスにも関係してきます。高齢者の方で片方だけが入れ歯になっていたりすると、転倒する率が高くなるんです。
やはり、すべての歯が均等に噛めていて、噛めない歯がないということが、全身や脳の健康を維持し、退化させないための大きなキーとなりますね。本当に、「歯根膜さまさま」です。
野田
歯による脳への影響はとても大きいんですね。
今回の対談を通して、やはり知らないことが多すぎると思いました。自分自身だけでなく、子育てにも大切なこと。噛む回数を増やせば肥満が解消されたり、健康になるというのも、とても勉強になりました。ありがとうございました。
歯肉をしっかりとケアしながらも、磨きすぎは厳禁。丁寧にケアをして、自分の歯を保ち続けていきましょう。自らの歯でよく噛む習慣を身に着けて、肥満や認知症に縁遠い生活を送りたいものですね。
執筆:栃尾 江美
医療法人社団千寿会 理事長 本間 輝章×P.G.C.D.代表 野田 泰平 対談[前編]
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