噛み合わせが悪くて歯が割れることも!?【子どもの頃にしっかり噛むことが大切】
医療法人社団 千寿会 理事長 本間 輝章×P.G.C.D.代表 野田 泰平[パート1]
本対談に3回目の登場となる、医療法人社団千寿会理事長の本間輝章先生。歯の健康、お口の健康は、とても大事なのに一般的に知られていないことが多く、大変興味深いもの。知らずに毎日過ごしていたことが、怖くもなります。自分のためでなく、これから大人の歯が生えてくる子どものためにも、今回は「噛み合わせ」を中心にお伺いしていきます。
噛み合わせには設計図がない? 上下の歯が連携して形が決まる
野田泰平(以下、野田)
Maison de P.G.C.D.のサロンルームからお送りしています。本日は、医療法人社団千寿会の理事長である本間輝章先生にお越しいただき、噛み合わせについてお伺いしていきます。これまでのお話のように、正しく大切な情報を提供して、読んでくださった方がよりよい商品を選べるようになっていただきたいと思います。
本間輝章(以下、本間)
はい。よろしくお願いします。
野田
まず、「噛む」については僕のエピソードを聞いていただけますか。僕が「噛む」重要性を知ったのは、剣道がきっかけでした。剣道で踏み込むとき、力を入れるので歯をかみしめる。繰り返しているうち、あるとき突然、歯が割れたんです。歯科医に聞くと「噛み合わせが悪いから」だという。治療してもまた負荷がかかって同じことになると言われ、人生で初めて歯科矯正をしました。こんなに生活に影響してくる噛み合わせというものについて、教えていただけますか。
本間
子どもの歯から大人の歯に生え変わる際、乳歯が抜けながら永久歯が生えてきます。歯って面白くて、上からも下からも歯が生えてくる。そのぶつかったところで初めて噛み合わせができます。最初から生える長さが決まっているわけではないんです。
野田
建築のように、最初から設計されているわけではないんですね。
本間
そうなんです。生えようとしている歯が、噛んでいる場所でうまく止まってくれます。つまり、生え変わりの時期に乳歯が早く抜けたり、虫歯によって抜かざるを得なくなったりすると、永久歯の生えるタイミングにタイムラグが起こる。その時に少しずつずれてしまうんです。
野田
本来であれば、タイミングがあってきちんと噛み合うようにできているんですね。
本間
ただ、途中で指しゃぶりやタオルを吸うような癖があると、前歯が出たり、吸う筋肉が作動して前歯の横あたりが凹んだりします。
野田
舌の形も、歯並びのアーチの形で変わると聞いたことがあります。
本間
歯の形によって舌の形は変わります。子どものうちからよく咀嚼していれば、顎が成長して歯が生えそろいスペースができ、舌がその中にすっと納まります。逆に、歯がない状態を放っておくと、舌が大きくなる「巨舌」になります。
また、口呼吸の癖があると舌がふわふわしている状態なので、歯並びが乱れたり、アーチが狭くなったり、舌が大きくなる場合もあります。
「いい噛み合わせ」とは、全ての歯で均等に噛めている状態
野田
ここで先生に教えていただきたいのが、「正しい噛み合わせ」「いい噛み合わせ」です。
本間
全ての歯が一律に噛めている状態ですね。また、下の顎が上の顎より少し手前に位置していて前後差がちょうどよく、すべての歯がまっすぐにしっかりかみ合っていれば、噛み合わせとしては悪くない。
見た目だけを気にして矯正したいとおっしゃる方が多いのですが、正常咬合(こうごう)と言われる「いい噛み合わせ」は人それぞれ。噛んだ時に全ての歯に分散して力が加わっていれば、多少歯並びの乱れがあっても許容範囲だと思います。
野田
歯並びがきれいだから噛み合わせがいいと思っていました。歯並びが美しくなくても噛み合わせがいい場合もあるんですね。
本間
とはいえ、歯並びが乱れていると噛み合わない場所が出やすいので、厳密には均等ではない部分もあります。ただ、奥歯がしっかり噛めていて、前歯も切断できるのであればかみ合わせとしては問題ありません。
いい噛み合わせのために、乳歯のうちにしっかり咀嚼して顎の成長を促す
野田
噛み合わせがずれるのは、どんな理由が多いのでしょうか?
本間
前回も話しましたが、現代人は噛む回数が減っています。弥生時代は一食ごとに3990回噛んでいたと言われており、咀嚼時間が51分もあったそうです。食事の時間ではなく、噛んでいる時間。あわやひえなど、加工していないものを食べるので、よく噛まないと呑み込めないんですね。一方で、現代は11分と書かれていますが、実際の咀嚼時間はこれより短いと思います。
野田
確かに……。ラーメンや蕎麦など、噛まずに飲んでいる人も多そうです。
本間
噛む回数が多いと、顎の筋肉が成長します。一方、食べ物がやわらかくなると噛む回数が減り、筋肉の力とともに骨も弱く、小さくなります。
こちらのレントゲン写真は、一番奥にある「親知らず」が横を向いています。親知らずが生えるとき、横向きから内側にスライドして生えていくんです。でも、顎の成長が足りないと、その手前の第二大臼歯に当たって出てこられません。歯が生え続けようとするのであれば、外科的に切開し、歯を砕いて取らなくてはないのです。
野田
僕もそうです。2回に渡って砕いて取りました。
本間
顎が成長せずに小さいままだと、本来その人の骨格に合うようにできている歯の大きさが合わなくなる。さらに、このレントゲン写真のようにそれだけで済まない場合があります。乳歯の下に「永久歯の卵」が見えています。永久歯は乳歯を押しのけて生えてくるはずなのですが、何本か永久歯の卵が見当たらないんです。
野田
え? どうしてですか?
本間
これは仮説ですが、人間が進化をしていて、歯が入りきらないなら「いらない」ということで間引いているのだと思います。これをみると7本少ないんです。最近では、2本ない、という子どもがとても多いです。
野田
とても多い!?
本間
進化と言うより、退化かもしれませんね。顎が大きくならないなら、歯の本数があっても乱れてしまうので減らそう、ということ。
本来なら、両親からの遺伝子で歯のサイズが決まります。永久歯が生えると「歯が大きい」と心配する方がいますが、頭部は成長するので問題ないはず。ただ、顔が小さいままの子どももいますし、もともと歯の横幅が小さい子どもも増えています。
野田
1本単位で小さくなっているんですね。
本間
小さい人も、ない人もいます。永久歯の卵がないと、押してくれるものがないので乳歯が抜けない場合も。ただその場合、50代くらいで乳歯が壊れてしまいます。
野田
え? 50代まで乳歯があるんですか?
本間
はい。そういう方もいますが、レアケースです。乳歯は永久歯に比べて弱く、虫歯になるリスクも高い。また、かむ力に耐えられなくてバシャっと割れてしまう場合もあります。永久歯がないのでインプラントなどで代わりにするしかありません。
女の子は大きな顔になりたくない、などと言いますが、しっかりと顎の成長を促したところで、顔が大きくなるわけではない。顎の成長を促し、よい噛み合わせを作るといった矯正もありますので、人それぞれのよい噛み合わせを作ってもらいたいですね。
野田
これは、子どものいる方はみんな知っておくべき話ですね。歯並びだけで一概には言えない「噛み合わせ」が重要なんですね。次回は噛む力が体に与える影響なども聞いていきたいと思います。ありがとうございました。
執筆:栃尾 江美
続きはこちら▼
本間氏との過去の対談はこちら▼
【第1回対談】
【第2回対談】
P.G.C.D.公式サイトはこちら▼